2008年12月15日月曜日

Schiaparelli 1927 (reprint and translated, 2007-2008)


ディール・アル=マディーナ(デル・エル=メディーナ)にある建築家カーの墓の報告書。なかなか実物を見る機会が難しい本でしたが、2007年にレプリントが80年ぶりに出版されました。さらには本文だけを英訳したものが今年になって同じ出版社から出され、その2冊がひとつの函に収められて今ではセットで販売されています。
エルネスト・スキアパレッリは盗掘のされていなかったこのカーの墓の他、ラメセス2世の妃であるネフェルタリの調査で有名です。スキアパレッリの一族は学者揃いで名高く、特に火星の観察をおこなってこの星の地図を作成したジョヴァンニ・スキアパレッリの逸話が知られています。火星に縞状の模様が見られることから、これをイタリア語で「溝」と報告したのですが、英訳された際には"canal"、「運河」と発表されて、火星人が本当にいるのかと騒ぎを引き起こした人でした。

Ernesto Schiaparelli, translated in English by Barbara Fisher,
Vol. 1: La tomba intatta dell'architetto Kha nella necropoli di Tebe.
Vol. 2: The Intact Tomb of the Architect Kha in the Necropolis of Thebes.
Relazione sui lavori della missione archeologica italiana in Egitto (anni 1903-1920), vol. 2
(AdArte, Torino, 2007-2008. First published in 1927 and reprinted in 2007; English translation in 2008)
ix, 193 p. + 61 p.

大判の本で、1巻目には再版を出す意義を述べたイタリアのエジプト学者A. Roccatiによる序文が加えられています。
カーの墓からは、カー自身の棺の他に奥さんのメリトの棺、またベッドや椅子、衣装箱、かつら箱、化粧道具箱といった家具の一式、ゲーム盤など、さまざまなものが出土しており、建築家という職業に因む折り畳み式のものさしや天秤もありますから、考古学上の意味は大きいとみなされています。
ただ、スキアパレッリはあまり詳しい報告書を出さなかったものですから、これが後年、問題となっています。

建築の立場から見れば、位の高い建築家の墓ですから、見るべきものがたくさん含まれています。あまり一般には知られていないものに、地下の部屋の入口で見つかった錠前付きの木製の扉があって、一見、丸穴が開いているだけのただの扉。これに対応する、「鍵」であろうと言われている遺物は、紐が通された中空の筒で、見かけ上は小さな筒にしか見えませんから、スキアパレッリは「かつらの毛をくるくる巻いてくせをつけるのに女の人が使ったのかも」、などと記しています。
紐を通した閂を用い、扉を開かないようにできる仕掛けを施した扉の機構については、ものすごく面倒な説明が必要となりますからここでは触れませんが、かつらの毛を巻くものではなく、扉の鍵ではないかという異論があることを認め、クレンカーが「そういう変な鍵を見たことがある」と言っている、とスキアパレッリは一方で述べています。

名前を本文ではKrencherと間違って綴っていますけれども、巻末の参考文献リストではDaniel Krenckerと正しく挙げられており、この人は古代ローマ建築研究を専門とした有名な目利き。バールベックの報告書を執筆している他、シリアの石造神殿の調査報告書も共著で書いています。イタリア語で書かれた古代エジプトの建築家の墓の報告書に、ドイツ隊に属するローマ建築の専門家クレンカーの名が出てくるというのも面白い。ここには理由があって、古代エジプト美術の研究者シェーファーが、クレンカーとともにZAeSという学術雑誌に共同執筆論文を書いているので、スキアパレッリの目に留まったわけです。
昔に造られた奇妙なひとつの遺物があり、それにどう解釈がなされるのかが示されていて、皆で知恵を絞り、情報が結びつけられていく過程がうかがわれます。

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