2009年2月10日火曜日

Eaton-Krauss and Graefe 1985


ツタンカーメンの墓から出土した、小さな祠堂の模型に関する報告書。
たかだか50cmほどの高さの黄金厨子の模型ひとつの報告だけで、1冊の本が造られています。いくら全面に金箔が貼られているからとは言え、特別に扱われ過ぎですが、しかしこれがツタンカーメン王の墓から出土したものの特色。

M. Eaton-Krauss and E. Graefe,
The Small Golden Shrine from the Tomb of Tutankhamun
(Griffith Institute, Oxford, 1985)
xii, 43 p., XXIX Pls.

グリフィス研究所から何冊も出ているこれらツタンカーメン関連の遺物の刊行シリーズは、改めて詳細な調査がなされずに纏められているという点においても独特な位置を占めます。カーターの遺物カード、日誌、写真などから図を起こし、報告書が仕立てられているわけで、カイロ博物館に収蔵されている現物を再調査していません。手持ちの資料をもとに纏めるという方法が採られています。

P. 2の註12には、

"Since it did not prove feasible to examine the shrine with questions of technique in mind, a detailed description of its construction could not be incorporated in this study."

という、たいへん微妙に書かれた部分があり、さらっと書いてありますが、この壊れやすい木製の模型がどう造られているかに関しては、調べることが完全に放棄されているということです。「できなかった」と記されていますが、こういう書き方をそのまま鵜呑みにしてはいけないところ。

従って、主として装飾モティーフと文字の解読にもっぱら焦点が当てられているわけで、文献学と美術史学とがエジプト学の中で先行している現状にあっては致し方ない点です。
これまで「金細工の名品」と言われてきたものの、実際には手抜きが見られ、仕事は雑だという報告文の最後が面白い(p. 43)。王のものだからということで、何でも完璧に拵えられたとみなされがちです。

建築的には、このかたちが上エジプトの祠堂「ペル=ウェル」を意味するものではなく、一般的な神殿の形態をあらわすものだという指摘が重要かと思われます。
ガードの堅い報告書の書き方が良く分かる本。

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