2009年2月5日木曜日

Janssen 2009


A5版の小さな本で「ディール・アル=マディーナ(デル・エル=メディーナ)の家具」という題名を持ちます。ただし図版は一切ありません。
新王国時代のヒエラティックの読み手、ヤンセンによる最新の本。

Jac. J. Janssen,
Furniture at Deir el-Medina,
including Wooden Containers of the New Kingdom and Ostracon Varille 19.
Golden House Publications Egyptology 9
(Golden House Publications, London, 2009)
iv, 103 p.

Contents
Part I: Furniture (p. 3)
Part II: Wooden Containers in the New Kingdom (p. 26)
Ostracon Varille 19 (p. 57)
Abbreviations and Bibliography (p. 102)

オストラカ(文字が記された石灰岩片や土器片)あるいはパピルスに出てくる家具に関する資料を集成した本と言って良く、例えば「寝台」をあらわす言葉はディール・アル=マディーナ(DeM)の文字資料に少なくとも125回出てくる、などと書いてあります。構築されたデータベースの活用がなされていることがうかがわれます。Deir el-Medina Onlineは一見の価値があります。

Deir el-Medina Database:
http://www.leidenuniv.nl/nino/dmd/dmd.html


彼はすでに大著、

Jac. J. Janssen,
Commodity Prices from the Ramessid Period:
An Economic Study of the Village of Necropolis Workmen at Thebes
(E. J. Brill, Leiden, 1975)
xxvi, 601 p.

の中で家具の値段について調べていますが、今度は家具を詳しく分類する視点に立って文字資料の整理をおこなっています。未刊行のO.Varille 19に羅列されている長い物品リストについては後半で扱い、分かる範囲のことを書き出すという構成。

"Grandet translated the first indeed as....." (p. 4)

と最初の方のページで書かれていますけれども、Grandetについて註は特に振られていませんし、巻末の文献リストにも挙げられていません。GrandetがpHarrisに関する本を出版していることを既知とみなして話を進めています。
O.DeM, O.Cairo, O.Turinなどについても同様で、煩雑となる註が省かれるだけでなく、参考文献リストからも除かれていますから、手元に充分な関連資料を所有していることが前提となります。

「衣服」という意味を持つ言葉を扱っている80ページは面白い。
脈絡からJanssenはこの言葉が"underpants"の一種ではないかと疑い、Wenteも「下着」ではないかと訳している箇所もあるのを勘案しつつ、その長さが6キュービットという記述が別にあることを引用して、

"a surprising length for such an item of dress! Perhaps 'under' is not correct."

と考え直しています。
人の身長よりもかなり長い下着をだらだらと引きずるさまの連想を誘う記述で、こういうところに言及する点が、彼独特の注目すべき持ち味です。
この本の表紙に掲載されているヒエラティックの第一行目がこの単語。なお、彼のDaily Dress at Deir el-Medina: Words for Clothing (London, 2008) , pp. 42-45でも同様の趣旨をもう少し長く述べています。
Pp. 6-7における"isbwt"、「折り畳み椅子」という見解についてはしかし、

M.-C. Bruwier,
"Origine et usage du tabouret isbet," in
Ch. Cannuyer et J.-M. Kruchten eds.,
Individu, société et spiritualité dans l'Égypte pharaonique et Copte:
Mélanges égyptologiques offerts au Professor Aristide Théodoridès
(Bruxelles, 1993), pp. 29-57.

との併読が必要。
Bruwierのこの論文に対してはさらに、M. Eaton-Kraussが情報の不足を指摘しています。

M. Eaton-Krauss,
"Three Stools from the Tomb of Sennedjem, TT 1",
in Jacke Phillips ed.,
Ancient Egypt, the Aegean and the Near East: Studies in Honor of Martha Rhoads Bell. 2 vols.
(Van Siclen Books, San Antonio, 1997),
pp. 179-192.

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