2009年3月10日火曜日

Beckerath 1999


古代エジプトの王たちの名をくまなく集めた本です。王の名がひとつではない点が、こうした書が執筆される理由。古代エジプトでは王名が通常は5種類もあり、その名が分かることによって遺構の時代が判定できる可能性もあるわけですから、重要となります。
複数の王名の存在に関しては、西村洋子先生の以下のページを参照。

http://www.geocities.jp/kmt_yoko/IMEG_4.html


ごく簡単な王名表なら旅行のガイドブックの巻末にも付記されていますが、5つの王名のうち、上下エジプト王名(即位名)とサァ・ラー名(太陽神ラーの息子名)だけに限られる場合が大半で、多種のヴァリエーションも包括して知られているもの全部を収めた本格的な集成となると、この書以外にはありません。
改訂版が出ています。

Jürgen von Beckerath,
Handbuch der ägyptischen Königsnamen.
Münchner Ägyptologische Studien (MÄS), 49
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1999.
2. verbesserte und erweiterte Auflage der Erstausgabe von 1984,
MÄS 20, xxii, 314 p.)
xx, 314 p., 4 Phototafeln.

またもや2009年3月4日付の永井正勝先生のブログの受け売りですけれども、この初版本に関しては王名の文字コード化をおこなったファイルが公開されているとのこと。
慣れない者にはログファイルの一種かと見間違える内容ですが、もし発掘現場でいくつかのヒエログリフが読み取れた場合には、検索によって王名、すなわち時代を限定することができるという意味合いがあります。
こういうファイルを英語で作って配信する卒業研究があっても良いかもしれません。感謝してくれるエジプト学関係の人々が、世界で必ずいるはずです。

永井正勝先生の2009年3月4日付ブログ:
http://mntcabe.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/chriss-egyptolo.html


Beckerath 1984、文字コード付記版:
http://www.geocities.com/cgbusch/egyptology/RoyalNames.txt


「ラメセス1世」、「ラメセス2世」、「ラメセス3世」、…などと順番が付けられているのは、現代人が勝手に便宜上、呼んでいるだけで、実際に記された王名を見ると「ラメセス」としか書かれていません。「ラメセス2世」と「ラメセス3世」との区別は、たとえば他の種類の王名や、あるいは併記されている治世年の長さなどによって判別がなされたりします。
ラメセス2世は特別に長生きし、子供があきれるほど数多くいました。跡継ぎである子孫が先にばたばたと死んでいく過程で、いちいち個別に墓を設けていくと大変ですから、王家の谷のKV5が造営されたと考えられています。この墓は部屋を多数備えた大規模な迷路状の遺構で、出水のために未だ最奥部の様相がつかめていないという、世界的にも珍しい最大規模の家族墓。

王家の谷、KV 5 (Theban Mapping Project):
http://www.thebanmappingproject.com/sites/browse_tomb_819.html


古代エジプト人の名前には意味があって、ダハシュールの発掘現場で見つかった神官「タ」の場合は、「大地」という意味になります。アクエンアテン(アケナテンもしくはアクナトン)の妃「ネフェルティティ」は「美しい者、来たる」というほどの意味ですから、日本語では「来美子さん」になりますでしょうか。
王名以外の名前も、資料集成がすでに作られています。「ナクト」とか「ウセルハト」とか「コンス」といった名前の他に、どのようなものがあるかを調べるにはこちらの3冊本が必携。ヒエログリフで書かれた古代エジプト時代の人名、名前を調べようと思った時には、必携となります。ヘルマン・ランケの古代エジプト人名事典として有名。

Hermann Ranke,
Die ägyptischen Personennamen, 3 Bände.
http://www.etana.org/abzu/coretext.pl?RC=18964


Band I: Verzeichnis der Namen
(J. J. Augustin, Glückstadt, 1935)
xxxi, 432 p.

Band II: Einleitung. Form und Inhalt der Namen. Geschichite der Namen. Vergleiche mit andren Namen. Nachträge und Zusätze zu Band I. Umschreibungslisten.
(J. J. Augustin, Glückstadt, 1952)
xiv, 414 p.

Zusammengestellt von A. Biedenkopf-Ziehner, W. Brunsch, G. Burkard, H.-J. Thissen, K.-Th. Zauzich,
Band III: Verzeichnis der Bestandteile
(J. J. Augustin, Glückstadt, 1977)
142 p.

永井正勝先生から、これら3冊が今ではダウンロードできることを御連絡いただいています。

第二次世界大戦を挟んで、第1冊目と第2冊目が出版されています。奥さんがユダヤ人で、そのため歴史に翻弄された研究者のひとり。第3冊目の刊行が本人の逝去後である点にも注意。死後にも尊重された学者であったことが良く了解されます。
彼は他地域における名前の研究もおこなっており、こちらの方が年代としては前となります。

Hermann Ranke,
Die Personennamen in den Urkunden der Hammurabidynastie. Ein Beitrag zur Kenntnis der semitischen Namenbildung
(München, 1902)

別の書き手による新王国時代の外国人の名前の研究もあります。

Thomas Schneider,
Asiatische Personennamen in ägyptischen Quellen des Neuen Reiches.
Orbis Biblicus et Orientalis (OBO), 114
(Universitätsverlag Freiburg Schweiz, Freiburg, 1992)
xiii, 479 p.

同名の者をどう判別するかという、古代エジプトにおけるプロソポグラフィ prosopographyという分野の研究も進んでいます。ディール・アル=マディーナにおける人名事典というのも近年、出版されました。

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