2009年3月23日月曜日

Powell (ed.) 1987


古代中近東の世界における労働の諸相を記した本。この領域に関する文献としては、最強の部類に属するものです。20年前の本ですが、これに代わる書は未だ出ていないはず。
巻末には「重要な古代語」の索引も設けられていて有用。

Marvin A. Powell,
Labor in the Ancient Near East.
American Oriental Series, Vol. 68
(American Oriental Society, New Haven, 1987)
xiv, 289 p.

古代エジプトのピラミッド建造に関わる労働者たちということであるならば、例えば、

Ann Rosarie David,
The Pyramid Builders of Ancient Egypt:
A Modern Investigation of Pharaoh's Workforce
(Routledge and Kegan Paul, London, 1986)
x, 269 p.

などが代表的な一般向けの入門書ですが、パウエル編のこの本では、ピラミッドの石材に残されていたヒエラティックによる書きつけを読んだ上での考察が展開されており、季節としてはいつ働いたのかなど、非常に詳しく検討されています。
シュメールにおける労働については、日本の前川和也先生が執筆なさっています。

Kazuya Maekawa,
"Collective Labor Service in Girsu-Lagash:
The Pre-Sargonic and Ur III Periods",
pp. 49-71.

しかし特に注目すべきは、この本の中でもっとも長い文が書かれている新王国時代の労働者組織についての章で、

Christopher J. Eyre,
"Work and the Organisation of Work in the New Kingdom",
pp. 167-221.

は古代エジプトにおける労働組織に関する基本文献。
関係するオストラカ(単数形はオストラコン。石灰岩片や土器片に文字が記されたもの。原義は「蛎殻」)やパピルスを専門に読む学者によって記された論文で、きわめて緻密な内容を示します。デル・エル=メディーナ(ディール・アル=マディーナ)を中心とし、人数、班構成、休日がいつ与えられたか、ストライキの話、掘削作業における明かりの問題、作業記録の方法、配給された品々など、逐一、根拠となる文字資料を挙げている点は素晴らしい。
チェルニーによる重要な本、

Jaroslav Cerny,
A Community of Workmen at Thebes in the Ramesside Period.
Bibliotheque d'Etude (BdE) 50; IF 453
(Institut Francais d'Archeologie Orientale, Le Caire, 1973)
iv, 383 p.

の改訂増補版といった位置づけとなりますが、この原稿はもともとはEyre自身の博士論文をもとにしていると推察され、こちらは400ページほどの厚さ。

Christopher Eyre,
Employment and Labour Relations in the Theban Necropolis in the Ramesside Period
(Dissertation, unpublished. Oxford, 1980)
iv, 387 p.

UMIを通じての米国における博士論文の入手とは異なり、英国で書かれた博士論文の入手は面倒で、著作権に関して念書の提出が必要となったりします。
他国の博士論文はもっと面倒。

0 件のコメント:

コメントを投稿