2009年4月1日水曜日

Wanscher 1980


格式を備えた折り畳み椅子を世界中から探し出した奇書。古代家具の研究書としてはH. S. Bakerの本とともに必ず挙げられるといっても良い非常に有名な本で、類書がまったくありません。
「家具 オーレ・ワンシャー」のふたつの単語で検索するならば「北欧家具デザイン界の巨匠」と出てくるはずですから、著者についてここで詳しく述べることは不要です。
題名の"sella"はラテン語で「椅子」のこと、また"curulis"は"currus"(chariot)から派生したらしい。古代ローマの皇帝が座る、背もたれのないX脚を持つ折り畳み椅子がこの名で呼ばれました。

Ole Wanscher,
Sella Curulis:
The Folding Stool, An Ancient Symbol of Dignity

(Rosenkilde and Bagger, Copenhagen ,1980)
350 p.

Contents:
Preface (p. 6)
I. Egypt (p. 9)
II. Ancient Near East (p. 69)
III. Nordic Bronze Age (p. 75)
IV. Cretan - Mycenaean (p. 83)
V. Greek (p. 86)
VI. Etruscan (p. 105)
VII. Sella Curulis (p. 121)
VIII. Faldestoel - Faldisrorium (p. 191)
IX. Pliant (p. 263)
X. China - Japan (p. 279)

1935年に、彼が建築専門雑誌へ折り畳み椅子の遺物について書いたことが契機となったと序文には見られますから、実に45年をかけて調べ上げ、書いた本と言うことになります。彼は1903年生まれですから、77歳の時に出版した書。日本で言えば喜寿に相当する年齢。

4000年以上にわたって世界で使われ続けた折り畳み椅子を、時代順に追っていきます。背もたれがなく、脚が交差し、折り畳むことができるこのタイプの椅子は、移動に便利な簡単な造りによるものでしたが、同時に権力の象徴でもありました。古代エジプトにおいても、ツタンカーメンの折り畳み椅子が知られています。第1章で、かなりの分量を割きながらエジプトの家具の例をまず紹介しています。第7章の、古代ローマにおける皇帝の椅子の記述も長い。その後、中世では高位僧職者の椅子として登場します。

一番最後の章では中国と日本における折り畳み椅子が扱われ、中国では2世紀に、すでに文字記録にあらわれるとのこと。古代ローマとの接触が疑われています。ここでも中国の皇帝が座る椅子。
日本の「床几(しょうぎ)」が出てくるのは、かなり本の後ろの方です。年月を費やして地球を巡り、東の果てへと辿り着きます。映画監督が座るディレクターズ・チェアとして、今なお最後の格式を保っている形式かもしれません。

家具設計者の視点から記された文面も多数散見され、興味深い。
掲載されている線描の図版はたいへん繊細で、著者の入念な配慮がしのばれます。

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